高知県公文書開示審査会答申第182号

公開日 2014年11月10日

高知県公文書開示審査会答申第182号

諮問第182号

第1 審査会の結論

 知事が「平成25年度高知県JET配置名簿」について部分開示とした決定は、妥当である。

第2 本件異議申立ての趣旨

 本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成25年12月20日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「県内の自治体の教育委員会に属するALTと国際交流員の名簿(氏名、出身国、所属教育委員会のみ)」の開示請求に対して、知事(以下「実施機関」という。)が平成25年12月25日付けで行った「平成25年度高知県JET配置名簿」(以下「本件公文書」という。)の部分開示決定を取り消し、国籍欄の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

 実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している本件部分開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。

1 条例第6条第1項第2号本文該当性
  今回異議申立てのあった国籍は、出身地といった個人の経歴はもとより、個人の家庭、生活関係にも関する情報であり、住所や婚姻歴等と同様、個人を識別することができる情報であるとともに、個人の権 利利益を害するおそれのある情報であると判断し、本号本文に該当するものとして非開示にした。
2 条例第6条第1項第2号ただし書該当性
  本号ただし書では、本号本文に該当する情報であっても、公的責任を明らかにする必要があると認められる情報等は開示することとされているが、国籍の情報は、以下のとおり本号ただし書のいずれにも該 当しない。
 (1) ただし書ウの(ア)では、地方公務員の職務の遂行に係る情報のうち、当該者の職名及び氏名は開示することとなるが、国籍は開示の対象とはされていない。
 (2) ただし書エでは、地方公務員の職務の遂行に係る情報のうち、当該職務の遂行の内容に係る部分は、開示することとしているが、募集に際しての国籍に関する資格要件としては、英語を母国語とする英語圏諸国の国籍であることとされており、特定の国の国籍は資格要件となっていない。したがって、国籍は職務遂行の内容に係る情報には該当しない。
3  異議申立人の主張に対する意見
 (1) 今回、職名及び氏名を開示したが、職名及び氏名が開示されることにより、個人が特定される状況になったとしても、条例上、除外される項目に該当しない「国籍」を開示することはできない。また、例えば、一部の学校や地域住民にとって国籍が周知の事実になっているケースがあるとしても、本人の同意なしに実施機関が一律に開示することはできない。
 (2) 異議申立人が述べているとおり、「ALTは英語圏の出身者であるからこそ、JETプログラムによって採用されている。」が、ALTの資格要件としては、英語を母国語とする英語圏諸国の国籍であることとなっており、特定の国の国籍は資格要件とはなっていない。例えば、英語のALTの場合であれば、イギリスやアメリカといった国に限らず、シンガポール、ジャマイカ等の国からも応募できることとなっており、国籍は、職務遂行の内容に係る情報には該当しないことから開示することにはならない。

第4 異議申立人の主張

 異議申立人が異議申立書、意見書及び意見陳述で主張している主な内容は、次のように要約できる。

1 本件公文書中の国籍欄は、ALT及び国際交流員の個人情報には当たらないと考える。
2 ALTや国際交流員が配属される教育現場では、国籍と名前がまず本人の最初の紹介事項に含まれるものと容易に想定されるし、彼らは、英語圏の出身者であるからこそ、JETプログラムによって採用された明らかな経緯がある。
3 教育委員会や学校現場を通じて、すなわち教員、生徒、保護者を始め彼らを取り巻く少なからぬ地域住民にとって既に周知の事実である彼らの国籍情報が、最終的な識別が不可能であっても、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれのあるものとみなされるのかどうかは、はなはだ疑わしいと考えられる。
4 もし、そのおそれに実効性があるならば、そのおそれは既に実現してい るはずである。個人的な経験上も、町で出会った彼らに出身国を尋ねて、警戒され、返答がなかったことは一度もないどころか、その後の出身国にまつわる会話を喜んでもらえた記憶しかない。
5 実にこれらの現実に照らし合わせてみても、基本的な見識を欠く、個人情報の解釈の乱用こそが、自由に他者と交わり、互いの属性の違いを認識、尊重しつつ、多様な人種、国籍、言語、文化からお互いが豊かな学びと共生の場を得る機会を奪うおそれがあると思わざるを得ない。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について
 (1) JETプログラムとは、「語学指導等を行う外国青年招致事業」で、総務省、外務省、文部科学省の三省及び一般財団法人自治体国際化協会(クレア)が主となって実施している事業であり、日本における外国語教育の充実及び青年交流による地域レベルでの国際交流の発展を図り、日本の国際化の促進に資することを目的としている。 本事業には、主に小・中・高等学校での英語教育の補助に従事する外国語指導助手(ALT)と、異文化理解講座や翻訳・通訳業務を行う国際交流員(CIR)といった職種がある。実施機関によれば、高知県においても県国際交流課をはじめ各市町村に約100名が任用されている。
 (2) 本件公文書は、高知県文化生活スポーツ部国際交流課が作成した「平成25年度高知県JET配置名簿」であり、高知県内に配置されている外国語指導助手(ALT)及び国際交流員(CIR)の任用団体名、職種(ALT又はCIR)、年数、氏名、性別、国籍、任用団体の連絡先(電話・FAX番号、担当者(職・氏名)、郵便番号及び住所)の一覧表である。
 (3) 実施機関は、本件公文書中の性別及び国籍の欄を条例第6条第1項第2号に該当するとして非開示とする部分開示決定を行った。 これに対し、異議申立人は、国籍欄の開示を求めて異議申立てを行っているので、以下検討する。
2 条例第6条第1項第2号該当性について
 (1)  条例第6条第1項第2号本文該当性について
  条例第6条第1項第2号本文は、「個人に関する情報」であって、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができると認められるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」については、本号ただし書ア~エ に該当する場合を除き非開示とすることを定めている。
  本件公文書には、ALT及びCIRの氏名とその者の国籍が記載されている。国籍は、個人の家庭、生活関係に関する情報であるとともに、後天的な国籍取得の場合には、思想、信条等個人の内心に関する情報でもある。本件公文書では氏名が既に開示され、国籍が個人を特定する形で記載されているため、国籍が特定の個人を識別することができる個人に関する情報であることは明らかである。したがって、本件公文書中の国籍は、本号本文に該当すると認められる。
  (2) 条例第6条第1項第2号ただし書イ該当性について
  本号ただし書イは、「公表を目的として作成し、又は取得した情報」は開示することと定めている。
  実施機関によれば、本件公文書は、国際交流課が事務の軽減のため県内に配置されているALT及びCIRの名簿を一覧表にして作成したものであり、公表を目的として作成したものでもないし、公表するこ とについて本人の同意を得て作成したものでもないとのことである。したがって、国籍は本号ただし書イに該当するとは認められない。
  (3) 条例第6条第1項第2号ただし書エ該当性について
  本号ただし書エは、地方公務員等の「職務遂行に係る情報のうち、当該職務の遂行の内容に係る部分」は開示すると定めている。JETプログラムでは、クレアからの斡旋の下で、各地方公共団体等(任用団体)がALTとCIRを直接任用することとなる。ALT及びCIRの共通の資格要件として、国籍に関しては、応募時に募集選考国の国籍を有すること、また、言語に関しては、指定言語を正確かつ適切に運用できる優れた語学力を有していることが定められている。平成25年度にこのプログラムに参加した40カ国のうち、英語を指定言語とする英語圏諸国は、アメリカ合衆国、英国、オーストラリア連邦等12の国がある。英語を指定言語とするALTを任用する場合、これら12の英語圏諸国の国籍保持者から選考されることになるが、12カ国の国籍保持者であれば資格要件を充足し、特定の国の国籍までは資格要件とされていない。なお、任用団体は、クレアに対して、姉妹・友好交流の関係等の理由で国籍や都市を指定して要望することができるが、必ずしも要望した国籍を有する者が斡旋されるわけではない。また、高知県では、ALT及びCIRを任用規則(「高知県教育委員会事務局高等学校課 平成25年度招致外国青年任用規則」及び「平成25年度高知県国際交流員任用規則」)に基づき任用するが、任用規則においては、国籍に関して何ら規定していない。 したがって、国籍は、地方公務員等の職務遂行の内容に係る情報とは言えず、本号ただし書エに該当するとは認められない。    

第6 結論

  当審査会は、本件部分開示決定について以上のとおり検討した結果、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断したので、答申する。

第7 審査会の処理経過

 当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成26年3月3日 ・実施機関から諮問を受けた。
平成26年3月10日 ・実施機関から決定理由説明書を受理した。

平成26年5月19日
(平成26年度第1回第二小委員会)

・実施機関から意見聴取を行った。
・諮問の審議を行った。

平成26年7月7日
(平成26年度第2回第二小委員会)

・諮問の審議を行った。

平成26年8月4日
(平成26年度第3回第二小委員会)

・異議申立人から意見聴取を行った。
・諮問の審議を行った。

平成26年9月4日
(平成26年度第4回第二小委員会)

・諮問の審議を行った。

平成26年9月22日
(平成26年度第5回第二小委員会)

・諮問の審議を行った。

平成26年10月27日
(平成26年度第2回公文書開示審査会全体会)

・諮問の審議を行った。
平成26年11月5日 ・答申を行った。

 

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