公開日 2013年03月27日
更新日 2014年03月30日
第7回INAPシンポジウム:高知港
高知県の津波対策
高知県港湾空港局長 門田時広
高知県港湾空港局長の門田です。
昨年12月、突然、スマトラ地震が発生しました。その地震で発生したインド洋大津波は、インド洋に面した多くの国々に多大な災害をもたらしました。ご当地、スリランカにも大津波が襲い、尊い人命や家財など多くの財産が失われました。心からお悔やみ申し上げます。
本日のシンポジウムのテーマは「生産性の強化~友好港交流を通じた世界への挑戦~」となっています。高知県はINAP会員港との交流を通じて、様々な経済交流活動を行っています。
スリランカ企業と取引を行っている高知県企業は増え続けています。例えば、農業・土木資材用のヤシガラ製品がスリランカから輸入されており、スリランカへは建設機械が輸出されています。実際に、先週高知県内企業数社がスリランカを訪問し、商談を行ったところです。
また、高知県企業の大旺機械株式会社とスリランカ企業のPEONEX社によって9月に設立された合弁会社「大旺ランカ」の設立記念パーティーが、昨日、スリランカにて開催されました。大旺ランカの目的は、高水準の建設機械メンテナンスサービスを提供することにあります。現在、スリランカは大津波の被害から立ち直るための復興に取り組んでおり、建設機械はその復興作業に大きく寄与します。大旺ランカがスリランカ復興に貢献できることを願っています。
さて、本日は「高知県の津波対策」について話をさせていただきます。
私の住む高知県は、環太平洋地震(火山)帯に属しています。スマトラ地震と同じような巨大地震や大津波に過去幾度となく遭遇しています。
なぜかと云いますと、日本海溝という1万メートル級の海溝にフィリピン海プレートが潜り込み、その上のユーラシアプレートが徐々に引き込まれています。このユーラシアプレートの上に高知県が、そして高知港があります。
このフィリピン海プレートは、年に4.6cm程度の速さで、ユーラシアプレートの下に潜り込んでいまして、一定以上のエネルギーが溜まりますと、海溝型の巨体地震となりエネルギーを発散します。そのため、100年から150年に一度、マグニチュード8を超える海溝型の巨大地震が起こります。500gal程度の揺れが80秒間起こりますし、その5分から30分後には、4mから12mの大津波が高知県の沿岸を襲います。
その結果、高知県内でも、1万人あまりの方々が尊い人命を失うのでは、と危惧されています。
近い将来、高知県の沖で起こる南海地震の規模は、過去の歴史から1946年に起こった地震より少し大きいだろうと想定しています。つまり、前の前、1854年に起こった地震の規模、マグニチュード8.4程度だろうと想定しています。
まず、1854年クラスの地震が起こりますと、高知県の沖の海底が2.2m程跳ね上がり、南東方向に6m程ずれる断層が出来ます。その反動で、高知県の中央部がゴムまりをつぶしたように沈みます。高知港の当たりの地盤が1m程沈下します。その上に海水が乗っていますので、海面にも同じように3m程度の差が出来ます。水は高い方から低い方に向かって動き始める。これが津波です。
「津波」という言葉は、日本語ですが、世界の共通語になっています。津、湾と言うことですが、そうした地形のところで津波は大きくなります。また、そこ、津は、台風などの波浪から守られた天然の良港になっています。港ですので、人口や産業が集積しています。過去幾度となく、甚大な被害を被るところが「津」。そして大きな「波」。「津波」と呼んでいます。
あまりうれしいお話ではありませんが、世界中で一番津波の被害を受けているのが、日本と言うことでしょう。
次に、津波の高さと海岸の堤防の高さの関係です。
高知県の海岸堤防は、台風の波浪で越波被害が生じないように、建設されています。そのため、外洋に直接面した沿岸の高さが高く、リアス式海岸など湾の奥部は低くでています。また、地震と同時に、四国全体に地盤変動が起こります。土佐湾のちょうど東西の中心を境に南側は隆起し、北側は沈降します。
地震が南海トラフ上の何処で発生するのか、想定が大変難しいので、過去の発生震源に沿って、震源を5ケース設定し、沿岸の津波の高さをシミュレーションしています。
地盤の沈下などの変動を考慮しても、ほとんどの海岸で、津波が海岸の堤防を越えることはありません。が、リアス式海岸の湾奥部では海岸堤防を大きく越流しますし、港湾や漁港の海溝部や河川から津波が大きく進入します。
高知県を襲う巨大地震や大津波は、100年から150年に1度という周期性を持っています。言い換えると、1度起これば、100年から150年は起こらないと云うことです。
そうした自然災害から、ハード整備のみで住民を守るのは、ハード施設の耐用年数や費用の面からも大変困難です。そこで、そうした超過災害に対する防御の仕組みを考える必要があります。ハード整備を主体とした「防災」対策からソフト対策を主体とする「減災」対策への政策の転換です。
今後、30年の間に50%の確率で発生するだろう巨大地震や大津波の災害から、まず「逃げる」、そして「逃げるを助けるハードの整備」を進めています。と同時に、そうした災害が起こった際の復旧拠点の整備も進めています。
「逃げる」の基本も、第1に「自助」、第2に「共助」、第3に「公助」と位置づけています。
まず、基本の「逃げる」について、お話を進めます。
国や県は、県下各地の地震動や津波シミュレーションを行っています。各地区地区の地震の揺れの大きさや陸域への津波の進入区域と浸水深さを求めます。と同時に、10cmの津波は何分で、50cmの津波は何分で、津波のピークは何分で何処まで到達するのかまで計算しています。
そうした、データを基に、各々の市町村が避難する方向や避難路、避難場所まで記入したハザードマップを作成することにしています。すでに、一部の市町村では、各家庭に配布しています。
次に、港や海岸での津波防災について、お話しします。
港の役割は、物流機能はもちろんですが、人々に安らぎを与える場にもなっています。
県下に、いくつかの海水浴場があります。
その中でも、地震発生後10分以内に津波のピークが到達し、背後への避難路から先に浸水が始まる場所があります。高知県の東端に位置する甲の浦港の白浜海岸は、一方を海に残りの三方を川に囲まれた地区です。花崗岩質の細かい白い砂に加え、遠浅であることから、夏場のシーズンには、千人を超える海水浴客でにぎわっています。
ここに津波が来襲しますと、退路を断たれるだけでなく、背後地を含め全域が津波に飲み込まれてしまいす。そこで、海浜公園の一部に人工地盤を建設し、海水浴客や背後の住民の避難場所を造っています。公園の広さや通常時の利用を考慮して、コンクリートのラーメン構造に設計しました。
次は、INAP友好港の高知港です。
この港は、1970年の10号台風による異常な高潮で、市内の1/3が浸水するという未曾有の被害を受けました。1946年の地震津波では、地盤が沈下したことや堤防が決壊したこともあり、津波は6時間ぐらいしか継続しませんが、12日間も浸水しています。そのころ田園だったところも、今は市街地化しています。
幸い、7010号台風を契機に建設された高潮堤防のおかげで、湾奥の市街地では、津波が高潮堤防を乗り越え浸水することはありませんが、河川の水門や閘門から津波が進入し、市街地が浸水します。そのうえ、地盤が1.5m程度沈降すれば、市の中心市街地は
海抜0m地帯となり、通常の潮汐でも、満潮時に1m程度浸水することになります。
ここでは、地震発生後20分程度で津波による浸水が始まります。とても、地震を感じてから、人為的に水門を操作したのでは間に合いません。そこで、主要な河川の水門は、250gal以上の揺れを感じると扉体が自動的に閉まる仕組みに改造しています。
それに加え、内水を強制排水するポンプ場も、地震により壊滅的な被害を受けないように補強しています。ポンプ設備の耐震化の技術がまだ確立されていませんので、操作機器を含め、津波に浸からない、転倒しない、大きく移動しないを基本に改良を加えています。
3番目は、須崎港です。
この港は、リアス式海岸の湾奥部に位置しています。その地形による宿命のように、遙か太平洋の反対で起こった1961年のチリ地震津波でも、県内でこの港のみ大きな津波による浸水被害を受けました。
23年前から防波堤で津波の進入を防ごうと、防波堤の建設と海岸堤防の嵩上げを進めています。現在、70%程の進捗率で、2010年代の完成を目指し工事中です。対象とする津波の計画規模が、1946年のマグニチュードは8.0となっていますので、最近変更した1854年のマグニチュード8.4クラスの津波を防ぐことは出来ません。
それでも、市街地の浸水深さの低減や浸水開始を時間を遅らすなどの効果があります。
最後に、復興に備えての復興拠点の整備です。
日本の土木構造物は、一般的に250gal程度の揺れに対して安定するように設計されています。マグニチュード8.4クラスの地震が発生した場合、高知県の沿岸では、500galを超える揺れになります。設計の2倍の地震力が、道路や河川、上下水道、建物などに加わります。陸上の構造物には、大きな被害が予想されます。陸路は大きく寸断されることになります。マグニチュード7クラスの余震が半年間も続くことを考えますと、陸路の復旧には、相当の日時を要します。空路での輸送には、限界があります。
そこで、県下の主要な港に、500galの揺れにも耐えられる耐震強化岸壁を整備しています。まだ、道半ばですが、2010年代半ばの完成を目指して整備を進めています。
港は、物流を支える根幹的な基盤であると同時に、大災害時の復興拠点にもなります。こうした情報も交換しながら、INAP会議の交流が益々深まりますように祈念しまして私の後援を終わります。
ご静聴ありがとうございました。
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