高知県公文書開示審査会答申第172号

公開日 2012年10月03日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第172号

諮問第172号


第1 審査会の結論

 高知県警察本部長が、「別紙事案に関して、高知県警察本部長が高知県公安委員会に対して報告したことが分かる文書」の開示請求に対し、公文書の存否を明らかにしない決定をしたのは妥当である。

第2 異議申立ての趣旨

 本件審査請求の趣旨は、審査請求人が平成23年10月3日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「別紙事案に関して、高知県警察本部長が高知県公安委員会に対して報告したことが分かる文書」(以下「本件公文書」という。)の開示請求に対し、高知県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成23年10月17日付けで行った公文書の存否を明らかにしない決定を取り消し、本件公文書の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の公文書の存否を明らかにしない理由等

 実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している公文書の存否を明らかにしない決定の主な内容は、次のように要約できる。
1 別紙事案には、特定の個人の名前を挙げた上で、特定の個人が犯罪を起こしたとする旨の内容が記載されている。このような特定の個人を名指しした探索的な公文書開示請求に対して、対象公文書の存否を答えるだけで、特定の個人が別紙に記載されているような犯罪容疑事案で調査されたか否かが明らかになり、条例第6条第1項第2号により保護しようとする当該特定の個人の権利利益を侵害すると認められるものに該当する。
2 特定職員に対する調査の有無に関する情報は、当該職員の職務遂行情報ではなく、当該職員個人の名誉や信用にかかわる情報であり、当然に保護されるべきプライバシーを有している情報である。
3 審査請求人が言う「監察請求書」は、審査請求人が警察本部に一方的に置いていったものであり、その趣旨は図りかねるが、実施機関としては、「監察請求書」により監察行為を行う義務を負っていない。

第4 異議申立人の主張

 審査請求人が審査請求書、意見書及び意見陳述で主張している審査請求の主な内容は、次のように要約できる。
1 事実無根であれば、事実無根と言えば良いだけの話である。警察本部は、監察請求書に記載している事案は存在しなかったと結論付けている。つまり、名指しされたとする職員の権利利益は十分に守られている。したがって、本件公文書が開示されたからと言って、特定個人の権利利益を侵害することはない。条例第8条の主意は、開示請求の事案については、高知県警察本部長には、個人情報保護法及び高知県個人情報保護条例に抵触するので、存否を明らかにすることはできないとする不可抗力的事由が、存在するときに限って、条例第8条を適用しなければならない。
2 公務員の公務中の行為については、国民固有の個人情報とは言わない。これらの者の職務行為については、国民と共有して当然の情報である。公務員の公務とは、公共の福祉すなわち公共の利益のための仕事をしているのだから、その職務態度や職務行為を個人情報とは言わない。また、これらの者の権利利益を侵害する理由はまったくない。
3 当該公文書開示請求は、平成23年7月20日に名宛人高知県警察本部長に対する「監察請求書」に基づいて行ったものであり、高知県警察本部長は「監察請求書」に係る監察行為を行わなければならない義務が発生しており、その監察結果を報告書にして公安委員会へ報告することは極めて自然の職務上の流れである。したがって、当該開示請求に係る公文書が存在することは明らかである。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について
審査請求人が作成した公文書開示請求書の「請求する公文書の件名等」の欄には、「別紙事案に関して、高知県警察本部長が高知県公安委員会に対して報告したことが分かる文書」と記載され、同請求書には、別紙事案の内容が解る文書として、審査請求人作成に係る平成23年7月20日付け「監察請求書」が添付されている。
そして、同「監察請求書」には、甲警察署において発生したとする職員Aによる強制猥褻事件及びAの周辺者である複数の職員Bらが上記事件の証拠隠滅を図ったこと等が記載されている。
これらによると、本件公文書は、職員A及びBら特定の個人が、監察請求書に記載された事案について調査の対象になったか否かという情報が記載された文書ということになる。
2 条例第6条第1項第2号について
実施機関は、氏名によって特定された職員が、監察請求書に記載されているような容疑事案で調査の対象となったか否かという情報は、条例第6条第1項第2号の個人に関する情報に該当する非開示情報に該当し、本件公文書の存否を明らかにすることによって、結果的に非開示情報が開示されたと同様の結果を招来するとして条例第8条を適用しているので、以下検討する。
(1) はじめに
条例第6条第1項第2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に係る情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができると認められるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」又は「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」は、原則として非開 示とする旨を定めている。
これは、個人の尊厳及び基本的人権を最大限に保護するため、個人が特定できる情報を包括的に非開示として保護することとしたものである。
しかし、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報の中でも、個人のプライバシーを侵害しないことが明らかな情報及び公的責任を明らかにする必要があると認められる情報があるため、条例第6条第1項第2号ただし書は、「ア 法令等の規定により何人も閲覧できるとされている情報」、「イ 公表を目的として作成し、又は取得した情報」、「ウ 次に掲げる者の職務の遂行に係る情報のうち、当該者の職名及び氏名((ア)に掲げる者にあっては、当該者の氏名を公にすることにより、当該者の個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるものとして実施機関が定める者の氏名を除く。) (ア) 国家公務員(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人の役員及び職員を除く。)及び地方公務員 (イ)(ウ)(エ)は略」及び「エ ウの(ア)及び(イ)に掲げる者の職務の遂行に係る情報のうち、当該職務の遂行の内容に係る部分」が記録されている場合は、同号本文に該当する場合でも開示しなければならないと規定している。
(2) 本件公文書の存否を答えることにより明らかになる情報の条例第6条第1項第2号本文の該当性
審査請求人によれば、本件公文書には、職員Aが強制猥褻事案で調査の対象になったか否かという情報(以下「本件情報A」という。)と職員Aの周辺者である複数の職員Bらが同事案に関する証拠隠滅事案で調査の対象となったか否かという情報(以下「本件情報B」という。)とが含まれるところ、本件開示請求は個人を特定したうえでなされており、本件特定の個人が監察請求書に記載された容疑事実について調査がなされたか否かに関する情報は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別されるもので、条例第6条第1項第2号本文に該当することは明らかである。
(3) 本件公文書の存否を答えることにより明らかになる情報の条例第6条第1項第2号ただし書の該当性
本件情報A及び本件情報Bのいずれの情報についても、法令等により何人も閲覧することができるとされている法令等は存在せず、また公表慣行もなく、公にすることが予定されている情報とも認められないことから、ただし書ア、イには該当しない。
次に、ただし書ウ及びエに該当するか否かを検討する。
ただし書ウ及びエは、当該個人が国家公務員及び地方公務員である場合において、職務の遂行に係る情報のうち、当該者の職名、氏名及び職務の遂行の内容に係る部分は、開示すべきものとしている。ここにいう「職務の遂行に係る情報」とは、当該組織の一員として、その担任する事務を遂行する場合における当該活動についての情報とされている。
まず、特定の職員Aによって引き起こされたとされている強制猥褻事案に係る情報は、特定職員が担当する事務を遂行する場合における当該活動についての当該職員の職務遂行情報には当たらず、当該職員個人の名誉や信用にかかわる情報であることからただし書ウ及びエに該当しない。
以上のことから、本件情報Aは、条例第6条第1項第2号本文の個人に関する情報として、非開示情報に該当することとなる。
次に、複数の職員Bらによって引き起こされたとされている上記事案に関する証拠隠滅事案に係る情報であるが、監察請求書の記載によれば、職員Bらによる証拠隠滅事案は、職員Aがしたとされる強制猥褻事件の存在を前提としなければ成立しえないものであるから、本件情報Bを開示すれば、結果的に本件情報Aが開示されたと同様の結果を招来することになる。
また、条例第3条後段が、実施機関に対して、個人に対する情報が十分に保護されるよう最大限の配慮をするよう義務付けていることをも考慮すれば、本件情報Aが非開示情報である以上、本件情報Bについては、条例各条の該当性を判断するまでもなく、非開示情報に該当するといわねばならない。
なお、本件情報Aは個人の資質や名誉に関わる情報であることから、条例第6条第2項に規定する、開示しないことにより保護される利益に明らかに優越する公益上の理由があるものとは認められない。
3 条例第8条の該当性について
次に、非開示情報である本件情報A及びBが、条例第8条の「開示の請求に対し、当該開示の請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」に該当するかどうかについて、以下検討する。
当該請求に対し、本件公文書が存在する場合に非開示理由を示して部分開示決定を行ったとすると、少なくとも、「特定職員らが監察請求書に記載されているような容疑事案で調査の対象となった」という情報が公開されることになる。逆に本件公文書が存在しない場合に公文書の不存在決定を行ったとすると、「特定職員らが監察請求書に記載されているような容疑事案で調査の対象とはならなかった」という情報が公開されることとなる。
つまり、本件開示請求に対し、本件公文書が存在しているか否かを答えることは、当該職員らに対する調査の有無を答えることと同様の結果が生じることとなるものと認められる。したがって、本件開示請求に対し、本件公文書が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報である本件情報A及び本件情報Bを開示することとなることから、条例第8条に該当する。
4 「監察請求書」について
審査請求人は、上記第4の3のとおり、平成23年7月20日に高知県警察本部長に対して監察請求を行っており、高知県警察本部長には監察行為を行わなければならない義務が発生しているのであるから、その監察結果を報告書にして公安委員会へ報告することは極めて自然の職務上の流れである、したがって、本件公文書が存在することは明らかであると主張しているので、以下検討する。
監察請求は、法令に根拠があるものではなく、事実上調査権の発動を促すものにすぎず、調査権の発動を義務付けるものではない。仮に、これを請願法に基づく請願として、警察本部で受理したとしても、請願は、国や地方公共団体等に請願を「受理する義務」と「誠実に処理する義務」を負わせるだけで、審査して回答したり、何らかの措置を行ったりすることを義務付けるものではない。
したがって、「監察請求書」を請願として取り扱ったとしても、監察行為を行う義務は負っておらず、本件公文書は必ずしも存在するとはいえない。
5 その他
審査請求人の審査請求及び意見書に記載されたその他の主張については、いずれも当審査会の判断を左右するものではない。

第6 結論

 当審査会は、本件公文書の存否を明らかにしない決定について以上のとおり検討した結果、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断したので、答申する。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成23年10月27日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成23年11月17日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。

平成23年12月27日
(平成23年度第3回第三小委員会)

・ 実施機関、審査請求人からの意見聴取及び諮問の審議を行った。

平成24年1月20日
(平成23年度第4回第三小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年2月29日
(平成23年度第5回第三小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年3月22日
(平成23年度第6回第三小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年4月20日
(平成24年度第1回第三小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年5月18日
(平成24年度第2回第三小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年6月29日
(平成24年度第3回第三小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成24年7月10日
(平成24年度第3回公文書開示審査会全体会)

・ 諮問の審議を行った。
平成24年7月17日 ・ 答申を行った。

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