高知県公文書開示審査会答申第178号

公開日 2013年11月15日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第178号

諮問第178号


第1 審査会の結論

 教育委員会が「本校○○教諭の部活指導中の暴力行為について」、「本校教諭○○の暴力行為について」、「報告書(平成24年4月20日付け)」、「本校職員に対する外部からの指摘について(報告)」、「報告書(平成25年2月4日付け)」を部分開示とした決定は、妥当である。

第2 本件異議申立ての趣旨

 本件異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成25年3月18日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「2010年度−2012年度の公立小中学校と県立高校、特別支援学校で起きた体罰の報告書」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対して、教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成25年4月1日付けで行った「本校○○教諭の部活指導中の暴力行為について」、「本校教諭○○の暴力行為について」、「報告書(平成24年4月20日付け)」、「本校職員に対する外部からの指摘について(報告)」、「報告書(平成25年2月4日付け)」(以下「本件公文書」という。)の部分開示決定を取り消し、被害生徒の氏名を除く非開示部分の開示を求めるというものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

  実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している本件部分開示決定理由等の主な内容は、次のように要約できる。
1 本件公文書中の非開示部分は、条例第6条第1項 第2号本文に該当する。
2 非開示とした理由は、次のとおりである。
 (1)学校名、所属名、校長名、行事名、教員名、大会名、練習試合の場所、氏名、メッセージカードの内容、学年、生徒名、症状、学校内での班名、通院した病院名・住所、学歴、地域名、所属名及び性別は、体罰を行った教員や体罰を受けた生徒及びその保護者等の特定の個人を識別できると認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であり、非開示とした。
 (2) 本件公文書における体罰は、職務に関して行った行為であるが、職員の厳重注意及び文書注意(厳重)(以下「措置」という。)は、実施機関が指導・監督上の措置として職員に対して行うものである。これらの対象となった行為の内容、措置の内容などは、当該職員固有の「個人に関する情報」であり、また、措置を受けたこと自体は「職務の遂行」の情報ではなく、当該職員の個人の資質や名誉に関わる当該個人固有の個人情報である。さらに、学校名や教員名を開示すると、別の公表資料と合わせることにより、その教員がどのような措置を受けたかが判明してしまう。
 (3) 学校名、所属名、校長名、行事名、教員名、大会名、練習試合の場所、氏名、地域名及び所属名は、学校名の特定につながる情報である。学校名が特定できただけでは体罰を受けた生徒までは識別できないかもしれないが、開示した内容にはクラブ名や体罰の行われた場所が含まれている。学校名が特定されると、当該クラブ等の関係者に問い合わせることにより、容易に体罰を受けた生徒を識別できることになる。
 また、非開示とした部分には行事名、大会名等が記載されているが、学校名と併せてこれらを開示すると、その関係者に問い合わせることにより、容易に体罰を受けた生徒を識別することができる。
 (4) 本件部分開示においては、体罰を受けた生徒の 言動や性格及びその保護者の言動にかかる部分を開 示しており、個人の特定につながる情報を開示する と、体罰を受けた生徒に関する情報や、保護者の言 動や内心の状況がどの特定個人に属するものかが明 らかになる。

第4 異議申立人の主張

 異議申立人が異議申立書及び意見書で主張している本件異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。
1 体罰の被害生徒につながる情報が非開示とされることに異論はないが、非開示とされた個人情報の範囲があまりにも広いため異議を申し立てた。
2 学校名、所属名、校長名、教員名や教員の性別、年齢、生徒の学年、性別については、どれほどの経験を有し、どのような立場に置かれた教員が、どのような立場の生徒に対して学校教育法(昭和22年法律第26号)で禁止されている体罰行為を行ってしまったのかを示す極めて重要な情報であり、今後県民が体罰を検証・防止するために必要な情報といえる。
 なおかつ、それらの情報が開示されたからといって被害生徒個人を特定するのは極めて困難である。生徒の名簿は一切公にされておらず、関係者が情報を漏らす前提がない限り、公表資料を突き合わせて生徒個人を特定することは困難である。極めて被害生徒に近い関係にある生徒の同級生、その保護者などならば識別可能かもしれないが、それは情報公開の有無にかかわらない。
 教員名については公務遂行上の情報であり、責任の所在を明確にするために表示されるにすぎず、それ以上に個人の行動や生活にかかわる意味合いを持たないため、個人の私的な情報に当たるとはいえない。
 決定理由説明書には、「当該職員固有の『個人に関する情報』であり、また、措置を受けたこと自体は『職務の遂行』の情報ではなく」とあるが、明らかに職務に関して行った体罰に付随する情報である。任命権者である実施機関が、教員の適格性の有無をどのような基準をもって判断しているかを間接的に示す情報で、県民の正当な関心事である。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について
 本件公文書は、県立の高校及び特別支援学校から実施機関に提出された体罰事案に関する報告書である。なお、本件開示請求に係る公立小中学校からの体罰事案の報告書については、実施機関が別途部分開示決定を行っており、これは本件異議申立ての対象とはなっていない。
 本件公文書には、「本校○○教諭の部活指導中の暴力行為について」(以下「本件公文書1」という。)、「本校教諭○○の暴力行為について」(以下「本件公文書2」という。)、「報告書(平成24年4月20日付け)」(以下「本件公文書3」という。)、「本校職員に対する外部からの指摘について(報告)」(以下「本件公文書4」という。)、「報告書(平成25年2月4日付け)」(以下「本件公文書5」という。)の5件の体罰事案の報告書が含まれている。
 本件公文書1は「校長の所見」及び「教諭の顛末書」の2通、本件公文書2は「校長の事件の経過報 告」の1通、本件公文書3は「校長の報告書」及び「教諭の顛末書」の2通、本件公文書4は「校長の所見」、「ソフトボール部保護者会について」、「保護者会と選手一同よりのメッセージカード」、「教諭の弁明書」及び「ソフトボール部アンケート結果について」の5通、本件公文書5は「校長の報告  書」1通から、それぞれ構成されている。
 実施機関は、本件公文書中の非開示部分は条例第6条第1項第2号に該当すると主張しているので、以下検討する。
2 条例第6条第1項第2号該当性について
 条例第6条第1項第2号は、「個人に関する情報」であって、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができると認められるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」については、本号ただし書アからエに該当する場合を除き非開示とすることを定めている。
(1) 本件公文書1について
ア 本件公文書1中の非開示部分は、高校名、校長名、学校長印、体罰を行った教員名(体罰を行った教員を以下「加害教員」という。)、加害教員の印、加害教員の経歴及び地域名である。
イ 本件公文書1には、クラブ活動中の体罰事案の詳細な内容が記録されている。同文書については、本件開示請求においてすでに体罰を受けた生徒(以下「被害生徒」という。)の所属クラブ名・当該クラブ内の役職名・ 学年・髪型、体罰の年月日・場所・態様及び当該クラブの部員数・部員構成・活動状況等が開示されており、さらに高校名まで開示されれば、すでに開示されている情報と照合することにより、被害生徒が特定される可能性が高いと考えられる。なお、学校長印にも、高校名が表示されている。
 校長名及び教員名は、高知県立図書館に所蔵されている「高知県教育関係職員名簿」に記載されており、また、実施機関によれば、校長名及び教員名は実施機関及び各高校に問い合わせれば誰にでも答えるとのことである。それゆえ、校長名、加害教員名及び加害教員の印が開示されれば、高校名が特定されると考えられる。
 また、加害教員の経歴は、当該教員を識別可能な具体的な内容であり、加害教員の経歴が開示されれば、教員名が判明し、高校名が特定されると考えられる。
 地域名についても、当該地域では被害生徒と同じクラブのある県立高校は1校のみであることから、地域名が開示されれば、高校名が特定されると考えられる。
 したがって、本件公文書1中の非開示部分は、被害生徒の個人識別情報であると認められ、本号に該当する。
(2) 本件公文書2について
ア 本件公文書2中の非開示部分は、高校名、校長名、学校長印、加害教員名、被害生徒名、その生徒の性別・学年・クラス・所属科名、病院名及び他の2人の教員名である。
イ 本件公文書2には、ホーム主任による体罰事案とその後の学校の対応について、詳細な内容が記録されている。
 同文書については、本件開示請求においてすでに体罰の日時・場所・態様及びホーム主任が代わった経緯等が開示されており、被害生徒名及びその生徒の性別・学年・クラスはもちろんのこと、高校名が開示されれば、すでに開示されている情報と照合することにより、被害生徒が特定される可能性が高いと考えられる。なお、学校長印にも、高校名が表示されている。
 校長名、加害教員名及び他の2人の教員名については、(1)で検討したとおり、これが開示されれば高校名が特定されると考えられる。
 また、非開示とした所属科がある高校は県内に1校しかないため、所属科名が開示されれば、高校名が特定されると考えられる。受診した病院名については、学校現場で発生した事故等で負傷した場合、概ね学校に近い医療機関へ行くことが予想されることから、病院名が開示されれば高校名が特定されると考えられる。
 したがって、本件公文書2中の非開示部分は、被害生徒の個人識別情報であると認められ、本号に該当する。
(3) 本件公文書3について
ア 本件公文書3中の非開示部分は、養護学校名、校長名、学校長印、教頭の種類、スクールカウンセラーの氏名、加害教員の氏名、加害教員の印、被害生徒名、その生徒の学年・学部名・クラス名・班名・障害の程度、器具の種類、病院所在地、病院名、症状及び他の3人の教員名である。
イ 本件公文書3には、作業学習のオリエンテーション中に発生した体罰の状況とその後の学校の対応について、詳細な内容が記録されている。同文書については、本件開示請求においてすでに体罰の日時・場所・態様、被害生徒の怪我の状況とその医療対応、保護者への対応及び校内対応等が開示されており、被害生徒名・その生徒の学年・学部名・クラス名・班名はもちろんのこと、養護学校名が開示されれば、すでに開示されている情報と照合することにより、被害生徒が特定される可能性が高いと考えられる。なお、学校長印にも、養護学校名が表示されている。
 校長名、教頭の種類、加害教員名、加害教員の印及び他の3人の教員名については、(1)で検討したとおり、これが開示されれば養護学校名が特定されると考えられる。
 スクールカウンセラーの氏名については、すでに当該養護学校において公表されており、これが開示されれば養護学校名が特定されると考えられる。
 受診した病院名と所在地については、(2)で検討したとおり、これが開示されれば養護学校名が特定されると考えられる。
 したがって、本件公文書3中の障害の程度、器具の種類及び症状を除く非開示部分は、被害生徒の個人識別情報であると認められ、本号に該当する。
また、被害生徒の障害の程度、器具の種類及び症状については、開示すると個人の障害の状況が特定されることとなる。これは、個人に関する情報であって、たとえ氏名などの個人が識別される部分を除いたとしても、公にすることにより当該個人の権利利益を害するおそれがあるものと認められることから、本号に該当する。
(4) 本件公文書4について
ア 本件公文書4中の非開示部分は、高校名、学校長印、加害教員名、大会名、練習試合の場所、メッセージカードの内容、部活動の性質及び他の1人の教員名である。
イ 本件公文書4には、ソフトボール部の指導中に発生した体罰の状況とその後の学校の対応について、詳細な内容が記録されている。
 同文書については、本件開示請求においてすでにクラブ名、当該クラブ保護者会の日時・参加者とその概要、体罰の態様、当該クラブの全国大会予選の成績、加害教員の誕生日、加害教員の当該クラブの指 導年数、当該クラブの選手に対するアンケート結果(11人の現選手名をAからKの英文字で匿名にしているものの、各選手ごとに体罰に関する具体的な回答内容が記載されている。)等が開示されており、さらに高校名まで開示されれば、すでに開示されている情報と照合することにより、被害生徒が特定される可能性が高いと考えられる。なお、学校長印にも、高校名が表示されている。
 校長名、加害教員名及び他の1人の教員名については、(1)で検討したとおり、これが開示されれば高校名が特定されると考えられる。
 大会名については、県立高校のソフトボール部で当該大会に出場した学校は1校のみであり、また、部活動の性質については、当該クラブの成績を示す情報であり、いずれも開示されれば、高校名が特定されると考えられる。
 練習試合の場所は、当該クラブ保護者会の開催場所で、その日時はすでに開示されていることから、これが開示されれば、高校名が特定されると考えられる。
 したがって、本件公文書4中のメッセージカードの内容を除く非開示部分は、被害生徒の個人識別情報であると認められ、本号本文に該当する。
 メッセージカードは、加害教員の誕生日に保護者会と選手一同よりプレゼントされたものであり、メッセージカードの内容については、個人に関する情報であって、たとえ氏名などの個人が識別される部分を除いたとしても、公にすることにより当該個人の権利利益を害するおそれがあるものと認められることから、本号に該当する。
(5) 本件公文書5について
ア 本件公文書5中の非開示部分は、高校名、校長名、加害教員名、被害生徒の所属科名、行事名及び他の1人の教員名である。
イ 本件公文書5には、学校行事のリハーサル中に発生した体罰の状況とその後の学校の対応について、詳細な内容が記録されている。
 同文書については、本件開示請求においてすでに体罰の日時・場所・態様、加害教員の雇用形態及び同校の卒業生であること等が開示されており、さらに高校名まで開示されれば、すでに開示されている情報と照合することにより、被害生徒が特定される可能性が高いと考えられる。
 校長名、加害教員名及び他の1人の教員名については、(1)で検討したとおり、これが開示されれば、高校名が特定されると考えられる。     
 被害生徒の所属科名については、非開示とした所属科がある高校は県内に1校しかないため、所属科名が開示されれば、高校名が特定されると考えられる。
 また、行事名については、特定の学校で行う性質のものであり、すでに開示している開催年月日と結び付け、学校ホームページの行事欄を閲覧することにより、高校名が特定されると考えられる。
したがって、本件公文書5中の非開示部分は、被害生徒の個人識別情報であると認められ、本号に該当する。

第6 結論

 当審査会は、本件部分開示決定について以上のとおり検討した結果、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断したので、答申する。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成25年4月22日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成25年4月30日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。

平成25年6月17日
(平成25年度第1回第二小委員会)

・ 実施機関から意見聴取を行った。諮問の審議を行った。

平成25年8月2日
(平成25年度第2回第二小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成25年9月3日
(平成25年度第3回第二小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成25年9月27日
(平成25年度第4回第二小委員会)

・ 諮問の審議を行った。

平成25年11月11日
(平成25年度第1回公文書開示審査会全体会)

・ 諮問の審議を行った。
平成25年11月15日 ・ 答申を行った。

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