公開日 2014年02月07日
更新日 2014年03月16日
高知県公文書開示審査会答申第180号
諮問第180号
第1 審査会の結論
高知県警察本部長が「速度測定記録表(平成25年2月20日の午前中に高知警察署管内で行われた速度取締りに関するもの)」について、「測定速度」欄を非開示としたことは、妥当である。
第2 本件審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、審査請求人が平成25年5月14日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成25年2月20日午前、高知警察署管内で行われた速度取締りに関する情報のうち、その取締り時間内に摘発した件数、取締りに費やした時間(2時間とかいう時間のこと)、および各違反者が実際に摘発された速度がわかる文書。なお、捜査、今後の取締りの支障となる内容の情報、個人情報等は開示を希望するものではありませんので、その部分は黒塗り等で非開示にしていただいて構いません。」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対して、高知県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成25年5月28日付けで行った「速度測定記録表(平成25年2月20日の午前中に高知警察署管内で行われた速度取締りに関するもの)」(以下「本件公文書」という。)の部分開示決定を取り消し、「測定速度」欄の開示を求めるというものである。
第3 実施機関の部分開示決定理由等
実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している主な内容は、次のように要約できる。
1 本件審査請求の趣旨の確認について
審査請求人から平成25年6月10日付けの審査請求書が郵送で提出されたが、本件公文書における非開示部分の全てについて開示を求めるものか「測定速度」欄の非開示部分についてのみ開示を求めるものか判然としなかったことから確認を行ったところ、審査請求人から審査請求は「測定速度」欄の非開示部分のみの開示を求めるものであり、審査請求書の訂正又は審査請求書を書き直しての再送を行うとの説明があり、平成25年6月13日付けの審査請求書が郵送で提出され、これを受理した。
2 本件公文書について
本件公文書は、定置式レーダー速度測定機器により速度取締りを行った際に作成するものであり、当該公文書には速度違反により検挙した運転手の違反事実に関する情報等が記載されており、「測定速度」欄の非開示部分には、当該測定機器により測定した当該運転手に係る運転車両の走行速度が1キロメートル単位の時速で記載されている。
3 条例第6条第1項第4号の該当性について
(1) 速度取締りは、警察法(昭和29年法律第162号)第2条に警察の責務として規定されている交通取締りであり、道路交通法(昭和35年法律第105号)第1条に規定された「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資する」という目的を実現するために行っているものである。
(2) 速度取締りについては、検挙主義に走ることなく、真に交通事故防止を推進することを目的としており、個々の取締りにおいては、取締りの公平性の観点から、危険性・迷惑性を考慮して、検挙すべきものとそうでないものとに区別した基準を設けている。したがって、実際に測定された速度が規制速度を超過したからといって、その全てを検挙しているものではなく、基準となる速度以下については、原則として検挙の対象とはしていないものである。
(3) 本件公文書の「測定速度」欄の非開示部分には、速度違反により検挙した際の測定速度が記載されており、これを開示することとした場合、同様の開示請求を繰り返して行うことで、速度違反で検挙されている速度に関する情報を収集することが可能となる。
その結果、検挙すべきものとしている速度超過の範囲が推測又は特定され、違法ではあるが検挙されない範囲が推測又は特定されることとなり、基準の範囲内であれば違法ではないとの誤った認識や警察が違反を容認しているという誤解を招くおそれがあるだけでなく、悪質な運転手等が違法ではあるが検挙されない範囲内で速度違反を行い検挙を免れることが可能となるなど、道路交通法違反という犯罪行為を行うことを容易にし、又は助長すること等により、道路における危険、交通の安全と円滑に対する障害が増大し、公共の安全と秩序を維持するための警察活動が阻害され、又は適正に執行できなくなるなどの支障を生ずるおそれがあることから条例第6条第1項第4号に該当するため非開示とした。
4 条例第6条第1項第6号の該当性について
(1) 速度取締りは、警察法第2条に警察の責務として規定されている交通取締りであり、条例第6条第1項第6号の対象となる事務事業に該当する。
(2) 速度取締りを含めた交通取締りは、道路交通法第1条に規定する目的を実現するために実施しているものであるが、全てを取り締まることは困難であり、限られた警察力で道路交通法の目的を実現するためには、運転手にどの程度の違反で検挙されるかという明確な基準をもたせず、交通法令を遵守するための心理的な抑止効果をもたらし、交通違反を抑止することが極めて重要である。
つまり、速度取締りは、違反者に対して罰金等の刑事上の刑罰を科し、又は反則金や違反点数による行政上の措置を行い、違反者に対する講習等による運転教育を通じて交通法令の遵守や違反再発の抑制を図り、更に反復して違反等を敢行する悪質な運転手等に対しては道路交通から一時的な排除等を図ることのほか、運転手に対して検挙すべき速度を明らかにせずに実施することで心理的抑止効果をもたらし、速度違反を抑止することも目的に行っているものである。
(3) そのため、速度違反により検挙した際の測定速度を開示することとした場合、3の(3)に示したように、検挙すべきものとしている速度超過の範囲が推測又は特定され、違法ではあるが検挙されない範囲が推測又は特定されることとなり、取締りの対象とならない程度の交通違反が増加することが十分に予想され、その結果、上記に記載した速度取締りの目的が達成できなくなるほか、速度取締りの円滑な執行に著しい支障を生ずることが明らかであるだけでなく、道路における危険性が増大し、交通の安全と円滑が保てなくなるなど、道路交通法の目的そのものを実現することができなくなり、道路交通行政の事務に多大な支障を及ぼすおそれがあることは明らかであり、その結果、県民全体の利益である安全な道路交通の実現を損なうこととなることから条例第6条第1項第6号に該当するため非開示とした。
5 審査請求人の主張に対する意見
審査請求人は、平成25年2月14日付け警察庁交通局発表に係る「平成24年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」の「6 道路交通法違反の取締り状況」を引用し、全国の最高速度違反取締件数2,221,120件のうち、最高速度違反15キロ未満での取締り件数が40件であることから、全国的に見て15キロ未満の速度違反の取締りはほぼ行われていないことが分かり、本件公文書の「測定速度」欄を非開示としても意味は無く、非開示とする合理的理由はない旨主張している。
しかしながら、この統計は、検挙すべき速度超過の範囲を明確とするための統計ではなく、あくまで区分別の超過速度件数を全国統計として公開しているものであり、また、本件統計をもって、速度超過の検挙基準が明らかになるものでもない。
一方、本件公文書における「測定速度」欄に記載されている測定速度は検挙すべき基準が明らかとなる情報であることから、前記3及び4で述べたように非開示とすることに合理的な理由がある。
第4 審査請求人の主張
審査請求人が審査請求書及び意見書で主張している本件審査請求の主な内容は、次のように要約できる。
1 「測定速度」欄を非開示とした理由は「これが明らかになると、公共の安全と秩序を維持するための警察活動が阻害され、又は適正に執行できなくなるなどの支障が生じるおそれがあると認められるため」と、「実施機関が行う交通取締りという事務事業に関する情報であって、開示することにより、実施の目的が失われ、又はこれらの円滑な執行に著しい支障を生じるため」の2つが挙げられている。
しかし、警察庁交通局が毎年発表している資料である「交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」によれば、最高速度違反の取締り状況が公表されており、違反の速度区分ごとの取締り件数を知ることができる。
平成24年分の統計では、すべての最高速度違反の取締り件数2,221,120件のうち、違反速度15キロ未満の取締り件数は40件と、全体の割合から言えば0.0018%で、ほぼゼロ%だと言え、全国的に違反速度15キロ未満の取締りはほとんど行われていないことが分かる。
このような統計情報が警察庁より発表されている以上、高知県警察において「測定速度」欄を非開示とする合理的理由はないため、速度測定記録表における「測定速度」欄の情報開示を求める。
2 実施機関が「本件統計をもって、速度超過の検挙基準が明らかになるものではない。」旨主張しているように、本件統計をもって検挙基準を推測することはできるが、検挙基準は特定できない。一方、「測定速度」欄の内容を開示しても、これをもって速度超過の検挙基準が明らかになるものでもなく、多くの情報開示を行った場合には、本件統計の場合と同様に、おおよその速度超過の検挙基準を推測できるに過ぎないものであり、実施機関が述べている「本件公文書における「測定速度」欄に記載されている測定速度は検挙すべき基準が明らかとなる情報」とは言えない。
また、本統計から分かるように、違反速度15キロ未満が検挙されないわけではない。「測定速度」欄を開示し、検挙基準が推測できるとしても、検挙基準未満の速度超過を検挙できないわけではなく、非開示とする合理的理由はない。
第5 審査会の判断
1 本件公文書について
本件公文書は、平成25年2月20日午前10時4分から午前11時35分までの間にかけて高知警察署管内において定置式レーダー測定器により速度取締りを行った際に作成された1通から成る「速度測定記録表」である。本件公文書には、(1)責任者・作成者の氏名、(2)幹部職員の確認印、(3)取締日時・取締場所・天候・視認性・規制速度・取締方法・取締機器、(4)取締体制、(5)測定試験結果、(6)音叉試験結果、(7)速度違反により検挙した運転手の違反事実に関する情報の各欄がある。また、(7)には、違反事実毎に、(i)通報内容、(ii)車両番号、(iii)時間、(iv)測定速度、(v)特徴・その他の各欄がある。
実施機関は、本件公文書のうち、(1)警察官の氏名、(3)中の「高知市」を除く取締場所、(4)取締体制、(5)中の警察官の印影、(7)中の(i)の通報内容、(ii)の車両番号、(iv)の測定速度について非開示とする部分開示決定を行っている。
審査請求人は、本件公文書中の非開示部分のうち、(7)の(iv)の「測定速度」欄の開示を求めている。これに対し、実施機関は「測定速度」欄について条例第6条第1項第4号及び第6号アに該当すると主張しているので、以下検討する。
2 条例第6条第1項第4号及び第6号ア該当性について
(1) 条例第6条第1項第4号は、「開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」については非開示とすることを定めている。
本号は、公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報は非開示とすることを定めたものである。本号に規定する情報については、その性質上、開示・非開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要するなどの特殊性が認められることから、実施機関の第一次的な判断を尊重するものではあるが、当該判断について、実施機関の裁量を無制限に認めるものではなく、合理性を持つ判断として許容限度内のものでなければならない。
(2) また、条例第6条第1項第6号アは、県の機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、「監査、検査、取締り、試験、入札、交渉、争訟その他すべての事務事業若しくは将来の同種の事務事業の実施の目的が失われ、又はこれらの公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずるもの」に該当することが明らかなものについては非開示とすることを定めている。
本号は、県の行う事務事業のうち、開示することにより県民全体の利益を損なうこととなる情報は非開示とすることを定めたものである。本号アに該当するためには、「実施の目的が失われ、又は著しい支障を生ずる」ことが客観的に明白でなければならず、単におそれがあるというだけでは本号アに該当しない。
(3) 実施機関も、条例の定める他の実施機関と同様に、情報公開制度及び情報提供を通じて、交通取締りを含め実施機関の所管する業務全般について、県民が主権者として県政へ参加するために情報の公開を推進する責務を有することは言うまでもない(条例第1条)。
本件で、審査請求人は、警察庁交通局「平成24年度中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」(平成25年2月14日(以下「道交法違反取締り資料」という。)を提出した上で、これによれば、全ての速度違反取締り件数のうち、違反速度15km未満の速度違反の取締り件数の割合はほぼゼロ%であり、これにより全国的に見て違反速度15km未満の速度違反の取締りはほとんど行われていないことが分かるとし、この道交法違反取締り資料が警察庁から発表されている以上、本件公文書中の「測定速度」を非開示とする合理的な理由はないと主張している。
なお、道交法違反取締り資料では、最高速度違反の取締り状況について、「速度50km未満」、「速度30km未満」、「速度25km未満」、「速度20km未満」、「速度15km未満」の各欄を設けた上で、それぞれの告知・送致件数とその構成率が記載されている。
これに対し、実施機関は以下の3点を主張している。
第1に、速度取締りについては、実際に測定された速度が規制速度を超過したからといって、その全てを検挙しているものではなく、基準となる速度以下については、原則として検挙の対象とはしていない。
第2に、道交法違反取締り資料中の最高速度取締り状況について30km未満までは5km単位、それ以上は10km単位で区分されているが、これは各違反の行政処分(点数付与)用のコード(各違反に対する点数、反則金額による区分)から出している統計であるためである。この資料中の統計数値は、あくまでも統計数値であり、しかも全国的な数値でもあることから、この統計をもって速度取締りの基準を公表しているものではない。
第3に、本件公文書中の「測定速度」欄には、速度違反により検挙された際の測定速度が1km単位で記載されており、これを開示した場合、同様の開示が繰り返されれば、違法であるが検挙されない範囲が推測又は特定されることとなる。これは、審査請求人がいう全国統計からの「憶測」と比べて、推認又は特定のレベルとして到底比較できる程度のものではない。そして、「違法ではあるが検挙されない範囲」が推認又は特定されれば、指定速度の標識、標示が意味をなさなくなるばかりか、規制速度を超えているが取締りされない違法行為が増え、悪質な運転者等が当該範囲内で速度違反を行い検挙を免れることが可能になってしまい、このような事態は、速度違反による事故の増加を招き、結果として道路における危険、交通の安全と円滑に対する支障が著しく増大することは容易に推測できる。
(4) 条例第6条第1項第4号にいう「公共の安全と秩序の維持」は、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行に代表される刑事法の執行を意味する。道路交通法違反の取締りに関する情報も、本号の対象となる。
そして、道交法違反取締り資料中の最高速度取締り状況のような概略的な全国の統計資料と異なり、本件公文書中の「測定速度」欄には実施機関において実際に検挙した測定速度が1km単位で記載されており、それゆえ、同様の開示が繰り返されれば、違法ではあるが検挙されない速度の範囲が推測又は特定され、当該範囲内で速度違反を行う者が増加することにより、公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあるとする実施機関の主張には、相当の理由があると認められる。
したがって、本件公文書中の「測定速度」欄は、条例第6条第1項第4号に該当する。
また、速度取締りは、警察法第2条に警察の責務として規定されている交通取締りであり、本件公文書は、その速度取締りを行った際に作成されたものであるから、条例第6条第1項第6号にいう県の機関が行う「事務事業に関する情報」が記録されている公文書に該当し、上記と同様の理由で、開示することにより実施機関の交通取締りにかかる将来の事務事業の実施の目的が失われ、又はこれらの公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずることが明らかであると認められるため、第6条第1項第6号アにも該当する。
第6 結論
当審査会は、本件部分開示決定について以上のとおり検討した結果、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「第1 審査会の結論」のとおり判断したので、答申する。
第7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、次のとおり。
年月日 | 処理内容 |
---|---|
平成25年6月26日 | ・ 実施機関から諮問を受けた。 |
平成25年7月10日 | ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。 |
平成25年8月19日 |
・ 実施機関から意見聴取を行った。諮問の審議を行った。 |
平成25年11月5日 |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成25年12月2日 |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成25年12月27日 |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成26年2月3日 |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成26年2月7日 | ・ 答申を行った。 |
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