公開日 2009年02月27日
更新日 2014年03月16日
高知県公文書開示審査会答申第59号
諮問第59号
第1 審査会の結論
知事は、非開示とした部分のうち、次の情報を開示すべきである。
(1)「中小企業高度化資金貸付残高一覧」のうち破綻と記載された企業(事業休止中の企業を除く。)及び公益法人並びに中小企業総合事業団の各企業CD、企業名、所在地
(2)「中小企業高度化資金貸付残高一覧」のうち高知県中小企業高度化資金貸付事業の融資額及び償還状況が公知の事実となっている企業の企業CD、企業名、所在地
(3)「高度化資金貸付延滞債権一覧表(元金)」と「高度化資金貸付延滞債権一覧表(利息)」のうち「中小企業高度化資金貸付残高一覧」に破綻と記載された企業名(事業休止中の企業を除く。)
第2 異議申立ての趣旨
本件異議申立ては、異議申立人が平成12年4月4日付けで高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「高度化資金(平成12年3月末で約定期日に償還されてないもの)平成12年4月4日現在の貸付金の未返済額(償還状況)のわかる資料」の開示請求に対し、知事(以下「実施機関」という。)が行った次の(1)から(3)までの公文書(以下(1)から(3)までの公文書を併せて「本件公文書」という。)の部分開示決定を取り消し、非開示部分の開示を求めるというものである。
(1)「中小企業高度化資金貸付残高一覧」
(2)「高度化資金貸付延滞債権一覧表(元金)」
(3)「高度化資金貸付延滞債権一覧表(利息)」
第3 実施機関の非開示決定理由等
実施機関が決定理由説明書及び意見陳述で主張している部分開示決定の理由等の主な内容は、次のように要約できる。
(1)本件公文書について
本件公文書は、中小企業総合事業団(以下「事業団」という。)と県の融資事業である高知県中小企業高度化資金貸付事業(以下「高度化事業」という。)に関する公文書である。
「中小企業高度化資金貸付残高一覧」は、平成12年3月31日現在の貸付の総残高を把握するため貸付台帳を基に作成された一覧であり、完済した企業であっても貸付台帳に残っているものについては、すべてこの一覧に記載されている。
また、「高度化資金貸付延滞債権一覧表(元金)」と「高度化資金貸付延滞債権一覧表(利息)」は、実施機関が同日現在の延滞債権の総額を把握するために作成した一覧である。
(2)条例第6条第3号該当性について
ア 高度化事業は、中小企業者が共同して経営体質の改善、環境変化への対応を図るために、工場団地、卸団地、ショッピングセンターなどを建設する事業や、第三セクター、商工会などが地域の中小企業者を支援する事業に対して、資金面から支援する制度であり、貸付先の対象には事業を営む個人も含まれている。
イ 本件公文書のうち、貸付先企業名、貸付企業の所在地、企業CD(企業ごとの情報を管理するために、個々の企業に付けた個別の番号で、実施機関だけが管理し、他の融資事業でも共通の番号を使用している。)については、開示することにより、企業等の借入金の内容が明らかになり、経営上最も重要である企業等の信用や営業活動に大きく影響を及ぼすと認められる。
仮に、貸付を受けた企業自らが貸付を受けたことを公表したとしても、実施機関はどの企業が公表したか否かを把握していないし、一般的に債権者側から貸付先を明らかにすることはない。
また、破綻した企業についても、一般的に債権者側から貸付先を明らかにすることはないし、個人事業者の場合は、例えば、過去に県から貸付金を受けていて返済できないまま破綻したというような個人事業者の情報が明らかになると、当該個人の社会的信用に関わり、当該個人が新たに行っている事業の運営上の利益を害することが考えられる。
更に、「中小企業高度化資金貸付残高一覧」に破綻と記載された企業は、事業団の「高度資金リスク管理債権の分類『平成10年3月の全銀協基準に準拠』」により破綻先債権に分類されたものであり、事業休止中の企業も含まれている。事業休止中の企業は、事業を再開する可能性が残されており、開示すると当該事業の運営上の利益を害すると認められる。
以上のように、貸付先企業名、貸付企業の所在地、企業CDは、開示することにより、企業等の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められ、かつ、ただし書のいずれにも該当しない。
第4 異議申立人の主張
異議申立人が異議申立書、意見書及び意見陳述で主張している異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。
(1)本件公文書は、県と事業団が共同で中小企業に資金を貸し付けた残高の一覧表であって、税金での貸付が今どのような状態なのかの一覧表であり、企業の秘密を記載したものではない。企業の決算書とその中にある資産と負債を公表することは、市場経済の安定と信頼のためには不可欠であり、社会の利益のためでもある。そのために不動産登記法第21条に基づき、何人も手数料を納付すれば不動産登記簿謄本の交付を受けることができる。県が資金を貸している企業名を秘密にすることは、当該企業の信用不安を助長することになり、当該企業の正当な利益を害することになる。
(2)実施機関は、これらの情報を開示すると企業の借入金の内容が明らかになり、当該企業の信用や営業活動に影響を及ぼすと主張するが、借金の額は資産と同じことであり、通常取引の相手に明示するものである。借入金額を隠す企業とは危なくて取り引きできない。
(3)実施機関が貸付先の名前を非開示にすることは、経営状態の危ない企業ではないかと疑われることになり、かえって当該企業の活動が困難になる。そもそも他の企業がしていないことをするのが企業秘密であり、借金はどの企業でもしているので秘密には当たらない。
(4)実施機関の非開示理由は、ほとんど条文を写しただけの短いもので、非開示にした理由が何ら具体的に示されておらず、説明責任を果たしているとは言えない。
本件公文書は、税金の使途を記載したものであるから、県民の利益が優先されるべきであり、開示しても企業の不利益にならないはずだ。
第5 審査会の判断
(1)本件公文書について
本件公文書は、実施機関が高度化事業の貸付金を管理するに当たり、平成11年度末現在の貸付金の状況を把握するために作成されたものであり、「中小企業高度化資金貸付残高一覧」(以下「残高一覧」という。)と「高度化資金貸付延滞債権一覧表(元金)」(以下「債権一覧表(元金)」という。)と「高度化資金貸付延滞債権一覧表(利息)」(以下「債権一覧表(利息)」という。)からなっており、各文書ごとに次の情報が記載されている。
ア 残高一覧
完済年度、償却年度、破綻・延滞・条件緩和の別、貸付年度、貸付番号、事業団番号、企業CD、貸付企業名、貸付企業所在地、資金種類、事業団貸付金額、貸付金額(県・事業団・計)、平成11年3月31日現在貸付残高、平成12年4月4日現在貸付残高
イ 債権一覧表(元金)
企業名、当初貸付(年月日・貸付額)、平成11年5月末(H10年度までの収入調定額)現在(既償還額・償還未済額)、平成11年度(12年3月31日現在)(既償還額・償還未済額)
ウ 債権一覧表(利息)
企業名、発生利息(年月日・利息額)、平成11年5月末(H10年度までの収入調定額)現在(既償還額・償還未済額)、平成11年度(12年3月31日現在)(既償還額・償還未済額)
(2)非開示とした情報
実施機関が非開示とした情報は、残高一覧のうち企業CD、貸付企業名、貸付企業所在地の情報、また、債権一覧表(元金)と債権一覧表(利息)のうち企業名の情報である。
(3)条例第6条第3号該当性について
本号は、法人又は事業を営む個人の権利利益の保護と事業活動の自由を保護し、公正な競争秩序を維持する観点から、開示することにより、法人等又は事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報は、非開示とすることを定めたものである。また、ただし書は、人の生命、身体等を保護するため開示することが必要であると認められる情報は、開示することとしたものである。
実施機関は非開示とした情報について、本号該当を理由にしているので、以下、非開示とした情報ごとに検討する。
ア 貸付企業名について
異議申立人は、借金の額は資産と同じことで、通常取引の相手に明示するものであり、市場経済の安定のために必要であると主張する。確かに、融資を受ける場合、取引の相手方に対して、決算書を提示するなど借入金の状況を明らかにすることは一般に行われているであろうが、何人に対しても借入金の状況を明らかにしているものではなく、異議申立人の主張は容認できない。
本件のような借入金の状況などの内部管理情報を誰に対して明らかにするかは、法人自らが選択すべきものであり、その同意なくして開示することは、当該企業の利益を害し、公正な企業間の競争秩序維持の妨げとなると認められる。
しかしながら、本件公文書において貸付企業名を開示することが本号に該当するか否かは、それぞれの企業ごとに本号の趣旨に沿って個別に判断されるべきであり、実施機関が主張するように、一般的に債権者側から貸付先を公表していないことを理由に、すべて非開示とすることは妥当ではない。当審査会において検討を行った結果、次の(ア)から(ウ)に掲げる企業名は、それぞれに記した理由により本号に該当しないと判断する。
(ア)残高一覧に破綻と記載されている企業名(事業休止中の企業名は除く。)
本号は、上記(3)に記したとおり、法人又は事業を営む個人の権利利益の保護と事業活動の自由を保護し、公正な競争秩序を維持する観点から規定されているものである。その趣旨からすれば、本号が適用されるのは、現に事業活動が営まれている場合、あるいは事業活動を営むことが予定されている場合であると考えられる。
ところで、実施機関の説明によれば、残高一覧に「破綻」と記載されている企業は、事業団の「高度資金リスク管理債権の分類『平成10年3月の全銀協基準に準拠』」に基づき破綻先債権に分類された企業であって、破産や解散の法的手続きをとった企業の他に事業休止中の企業が含まれている。
このうち事業休止中の企業は、事業を再開する可能性があり、当該企業の同意なくして企業名を開示すると、どこから融資を受けているかという財務内容が明らかになり、公正な企業間の競争秩序維持の妨げとなり当該企業の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
しかしながら、破産や解散の法的手続きをとって既に事業活動を行っていない企業については、本号を適用する理由がないものと認められる。
以上のことから、残高一覧に「破綻」と記載された企業名は、事業休止中の企業を除いて本号に該当しないと認められる。
(イ)公益法人名及び事業団名
公益法人には「知事の主管に属する公益法人の設立の許可及び監督に関する規則」第8条の規定に基づき、事業団には「中小企業総合事業団法」第30条第3項の規定に基づき収支決算書等を事務所に備え一般の閲覧に供することが義務づけられている。
したがって、公益法人名及び事業団名を開示することによって、その競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害するとは認められず本号に該当しない。
(ウ)貸付企業名「協業組合モード・アバンセ」
協業組合モード・アバンセについては、地方自治法第100条に基づき高知県議会に設置された「特定の協業組合に対する融資問題等調査特別委員会」において調査の対象となっており、高度化事業の融資額や償還の状況などが既に公知の事実となっており、当該企業名を開示することによって、当該企業の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害するとは認められず本号に該当しない。
イ 貸付企業の所在地について
所在地欄には貸付企業の所在地が地番まで記載されており、これを開示すると他の情報と結びつけることにより特定の企業が識別できることとなり、どこから融資を受けているかという財務内容が明らかになり、公正な企業間の競争秩序維持の妨げとなる。
したがって、上記アで本号に該当しないと判断した企業を除く企業の所在地は、当該企業の同意なく開示すると、当該企業の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められ本号に該当する。
ウ 企業CDについて
企業CDは、実施機関が企業ごとの情報を管理するために、個々の企業に付けた個別の番号である。この企業CDは実施機関だけが管理しているものであるが、他の融資事業でも共通の番号を使用しており、これを開示すると他の情報と結びつけることにより特定の企業名を識別できることとなり、どこから融資を受けているかという財務内容が明らかになり、公正な企業間の競争秩序維持の妨げとなる。
したがって、上記アで本号に該当しないと判断した企業を除く企業の企業CDは、当該企業の同意なく開示すると、当該企業の競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害すると認められ本号に該当する。
以上のことから、実施機関が非開示とした情報のうち、上記アの(ア)から(ウ)に掲げた企業名、同企業の所在地及び同企業の企業CDを除く情報は本号に該当し、ただし書のいずれにも該当しない。
第6 結論
当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「1 審査会の結論」のとおり判断した。
第7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、次のとおり。
年月日 | 処理内容 |
---|---|
平成12年5月19日 | ・ 実施機関から諮問を受けた。 |
平成12年6月29日 | ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。 |
平成12年7月13日 | ・ 異議申立人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。 |
平成12年8月7日 (平成12年度第9回第一小委員会) |
・ 異議申立人の意見陳述を行った。 |
平成12年12月22日 (平成12年度第13回第二小委員会) |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成13年1月22日 (平成12年度第15回第二小委員会) |
・ 実施機関の意見陳述を行った。 |
平成13年2月20日 (平成12年度第17回第二小委員会) |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成13年3月21日 (平成12年第18回第二小委員会) |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成13年3月30日 (平成12年度第9回審査会) |
・ 諮問の審議を行った。 |
平成13年5月7日 | ・ 答申を行った。 |
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