高知県公文書開示審査会答申第87号

公開日 2009年02月27日

更新日 2014年03月16日

高知県公文書開示審査会答申第87号

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諮問第87号


第1 審査会の結論

  教育委員会が「平成13年度高知県教職員自己啓発研修(通信研修)についての研修内容・人数、受講者名など実態がわかる文書及び個々の受講修了報告書」について部分開示とした決定は妥当である。

第2 異議申立ての趣旨

  本件異議申立ては、異議申立人が高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。以下「条例」という。)に基づいて平成14年4月15日付けで行った「平成13年度高知県教職員自己啓発研修(通信研修)についての研修内容・人数、受講者名など実態がわかる文書および個々の受講修了報告書」(以下「本件公文書」という。)の開示請求に対して、教育委員会(以下「実施機関」という。)が行った部分開示決定について、年齢、性別を除くその他の非開示とした部分の開示を求めるものである。

第3 実施機関の部分開示決定理由等

 実施機関が、決定理由説明書及び意見陳述の中で主張している部分開示決定の理由等の主な内容は、次のように要約できる。

1 平成13年度高知県教職員自己啓発研修(通信研修)(以下「本研修」という。)について

  (1) 教育公務員は、その職務を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならないと、教育公務員特例法(昭和24年法律第1号。以下「法」という。)で規定されており、教科に対する専門的な知識とともに、教育的愛情や教養を基盤とした実践的指導力を身に付けるよう、不断の努力を行っていくことが求められている。そのために、行政機関には研修の機会を提供することが課せられている。
 本研修は、この趣旨を踏まえて実施機関が通信研修という形で毎年実施し、教職員が自発的に取り組んでいる研修のうち平成13年度に実施したもので、「やわらかアタマ創造コース」や「自分さがしのライフデザインコース」など実施機関が用意した11コースの研修の中から、教員が自発的にコースを選択するものとし、応募のあった教職員の中から受講者103名を選んでいる。

  (2) 本研修は公費を使った研修であり、その内容は、学校教育に関わるものというよりも、これまでの自己の生き方や物事への取り組み方に対する意識の向上や改革をねらったものであるが、本研修を通
じて得られた受講者の内面の変化は、その後の児童生徒の指導に生かされ、そのことを通じて広く県民に還元できるものであると判断している。したがって、本研修の成果は、この報告書だけで確認できるものではなく、今後の教員の教育活動を通じて評価されるべきものであると考える。
 また、研修の進め方として、テキストの熟読、提出レポートの作成は勤務時間外に行うことを条件にし、受講者は勤務時間外に研修を進めている。

2 本件公文書について

 本件公文書は、本研修の受講者103名の名簿、及び本研修を通じて受講者が学んだ内容を把握し、そのことを通じて、効果のある研修のあり方を確認するため、実施機関が提出を求めた終了報告書のうち45名分の終了報告書である。

3 条例第6条第1項第2号該当性について

 公文書の開示にあたっては、県民の知る権利が十分尊重されるよう条例を解釈し、運用しなければならないが、一方で、個人に関する情報は十分保護されるように最大限の配慮がされなければならな
い。
この終了報告書は様式が定められていないため、受講者の研修を受けるに当たっての動機や、受講後の所感等、受講者の内面に係る部分が自由に作文形式で記載されている。その中には、自己の振り
返りや反省点など個人の内面の状況や評価などが明らかになる情報が含まれている。これらの情報は個人に関する情報であり、かつただし書のいずれにも該当しない。
 また、終了報告書は、本人の意思で、読まれることを前提に提出されており、個人情報保護条例には違反しない。

第4 異議申立人の主張

 異議申立人及び補佐人が異議申立書、意見書及び意見陳述で主張している異議申立ての主な内容は、次のように要約できる。

 1 本研修について

 教員は、教育基本法に則って、子どもに主権者としての基礎的な学力を身につけさせ、人格の完成を目指す教育活動を行う責務がある。そのために、教育公務員は、法第19条によって、その職責を遂行するために絶えず研究と修養に努めなければならないと定められている。
 これを受けて、実施機関は自己啓発研修として、県が受講費を負担して通信研修を実施している。
 本研修は、税金を使った研修であって、その結果がどうであったかは県民として大きな関心事であり、成果と課題は当然県民に示すべきである。

2 条例第6条第1項第2号該当性について

(1) 本請求の目的は、公費を使って行なわれている事業がどのような成果をあげているかを知るためのものであり、報告書の内容が「個人の内心の状況などが明らかになる」という理由で非開示となるなら、県民は公費を使って行なわれている研修がどのような成果をあげたのかを一切知ることができない。
本件公文書を誰に対して提出するかと言えば実施機関である。非開示となった部分が、教員の思想信条にかかる内容と判断するのは実施機関の主観であり、非開示、部分開示により恣意的に判断することは可能である。
実施機関は、本件公文書は受講者個人の内心の秘密に関する情報が記載されているとしているが、手紙、日記ならともかく、県費で研修を受けたその結果である本件公文書は感想文であり、決して個人の内心の秘密に関する事項ではない。
また、自己啓発研修の受講終了報告書についての、本請求と他の請求に対する部分開示決定理由
や、非開示となった部分には違いがあり、実施機関の判断には一貫性がないと言わざるを得ない。なお、受講者名簿の年齢と性別については争わない。

(2) 実施機関は様式を定めて「受講終了報告書」の提出を義務付けているが、この研修の終了を確認し たいのなら「終了証」のコピーで足りる。外に目的があるから、終了報告書を提出させるのであって、それが「特定の個人の内心に関するもの」というなら、県教委は「内心の状況」という個人情報を収集していたことになり、個人情報保護条例に違反する。

第5 審査会の判断

1 本件公文書について

実施機関は法の趣旨に基づき毎年通信研修を実施している。本件公文書は、平成13年度に実施した通信研修の103名の受講者名簿及びそのうち45名分の受講終了報告書である。

2 条例第6条第1項第2号該当性について

 本号は、条例第3条後段の「個人に関する情報が十分保護されるように最大限の配慮をしなけれ ならない。」との規定を受け、原則公開の情報公開制度の下にあっても、特定の個人を識別することができる情報は、原則非開示とすることを定めたものである。
これは、個人のプライバシーを最大限保護するため、プライバシーであるか否か不明確な個人に関する情報も含めて、特定の個人を識別することができると認められる情報は、原則として開示してはならないとするものである。

(1) 実施機関は、非開示とした受講の動機や受講しての所感、受講者に対する評価等は個人に関する情報であり、開示すると特定の個人の内心 の状況や評価などが明らかになると主張している。
一方、異議申立人は、公費で研修を受けたその結果である本件公文書は感想文であり、決して個人 の内心の秘密に関する事項ではないと主張しているので、以下、本号該当性について検討する。
本研修は公費を使って実施されており、職務の一環として受講したものであると認められる。
しかしながら、本件公文書のうち非開示とした部分には、受講の感想、反省点等受講者個人の主観 や、受講者に対する評価が記載されている。
これらの情報は、たとえ研修が公費を使って実施されているとしても、個人の内心に関する情報で あることから、個人に関する情報であると認められる。
非開示とした部分には、一部受講内容など客観的な事実が書かれていると思われる部分もあるが、受講者が重要であると思われるところについて、その部分を取り上げて書いていること自体が受講者の内心の状況を明らかにしたものである。
 以上のことから、これらの情報は、条例第6条第1項第2号に規定する個人に関する情報に該当し、かつ、ただし書のいずれにも該当しないと認められる。
なお、異議申立人は、受講終了報告書を提出させることで内心の状況という個人情報を収集しており、高知県個人情報保護条例に違反すると主張するが、同報告書の内容を見ると高知県個人情報保護条例で収集を禁止する思想信条などに該当する情報ではなく、また、受講終了報告書は、受講者が本人の意思で実施機関に提出したものであり、高知県個人情報保護条例には違反しないと判断する。

  (2) 部分開示決定において、本件公文書中にある教職員の印影が非開示とされている。この印影は本来開示すべきものだが、当該教職員の氏名そのものは既に開示されており、印影のみを改めて開示しても、公費を使った研修の成果を明らかにするという開示請求の趣旨を満たすとは認められない。

 3 その他

(1) 開示・非開示の判断について
本件公文書のうち、すでに開示されている情報の中には、受講者が受講内容等の客観的な事実を記載したと実施機関が判断して開示した部分がある。しかしながら、前述したとおり、受講者が重要であると思われる受講内容等について、その部分を取り上げて書いていること自体が受講者の内心と認められる。また、個人の評価に関する情報が開示されている部分も認められる。
このように、必ずしも客観的な事実、内心に関わりのない事実だけではなく、本来非開示とすべき情報が開示されているものが認められる。
したがって、今後は条例に基づきより適切に判断することが求められる。 
 
  (2) 研修の成果の公表について
本研修は公費を使った研修である以上、今後は何らかの形で成果を県民に公表するよう配慮することが望まれる。

第6 結論

当審査会は、本件公文書を具体的に検討し、最終的には高知県公文書開示審査会規則第4条第3項の規定による多数決により、冒頭の「1 審査会の結論」のとおり判断した。

第7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、次のとおり。

年月日 処理内容
平成14年6月19日 ・ 実施機関から諮問を受けた。
平成14年7月8日 ・ 実施機関から決定理由説明書を受理した。
平成14年8月2日 ・ 異議申立人から決定理由説明書に対する意見書を受理した。
平成16年5月25日
(平成16年度第3回第三小委員会)
・ 実施機関の意見陳述を行った。
・ 異議申立人の意見聴取を行った。
・ 諮問の審議を行った。
平成16年7月5日
(平成16年度第5回第三小委員会)
・ 諮問の審議を行った。
平成17年1月24日
(平成16年度第3回公文書開示審査会)
・ 諮問の審議を行った。
平成17年3月28日 ・ 答申を行った。

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